今回は、最近テストネットが始まり賑わいを見せているMonadという新たなレイヤー1チェーンについて解説しようと思います。
EVMでは今までできなかった並列計算を組み込んでおり、EVMなの実行が早い特殊なレイヤー1です。
1. Monadチェーンとは
Monadは、EVMのバイトコード互換をもちながら“並列実行”を可能にする新しいレイヤー1ブロックチェーンです。従来のEVM互換チェーンは基本的にトランザクションを直列に並べて1つずつ処理しますが、Monadでは独自の並列実行アルゴリズムを導入することで、一度に多くの処理を効率的にこなせるよう設計されています。
さらに、Monadは高性能なコンセンサス機構(MonadBFT)や、それを支えるRaptorCastと呼ばれるブロック配信プロトコルを採用することで、ブロック生成の高速化・最終性(finality)の短縮を目指しています。現在はテストネットを運用中で、ブロックタイムはおよそ500ミリ秒、約1秒ほどでブロックのファイナリティを得られることを目標に設計されています。
また、オープンで分散化されたネットワークを維持するために、100〜200台程度のバリデータが参加する形を想定しており、高いトランザクションスループットを保ちつつ、地理的に偏らないバリデータ分布を実現する方針をとっています。
2. Monadの目的・狙い
(1) 高いスループットと低コストの実現
EthereumはDeFi、NFT、ゲームなど多様な用途に活用されてきましたが、利用が増えるほどガス代が高騰し、処理の遅延が顕著になる問題を抱えていました。Monadは、EVMとの互換性を保ちつつ並列実行や高速コンセンサスを導入し、1秒あたりの処理能力(TPS)を大幅に引き上げることを狙っています。これにより、ユーザーはより安価でスムーズなトランザクション処理を利用できるようになる見込みです。
(2) 真の分散化と検閲耐性
高スループットを実現しようとすると、ノードの集約化や地理的偏りが起こりやすくなり、分散化が損なわれる懸念があります。Monadでは、以下のようなスペックのサーバーでもフルノードとして十分動かせる設計を目標に掲げています。
- RAM:32GB
- SSD:2TB x 2
- CPU:16コア(4.5GHz程度)
- 帯域幅:100Mbps
これらは月数百ドル、あるいは構成によっては1,500ドル程度の投資で用意できるため、より多くの参加者がバリデータやフルノードを運営しやすくなり、結果として分散化が進むと期待されています。
(3) ロールアップではなくL1としての独立性
最近はイーサリアムの混雑を解消する手段として、ArbitrumやOptimismなどのロールアップも注目されています。しかし、Monadは「ブロック生成の権限が集中しやすいロールアップ」ではなく「独自のコンセンサスを備えたL1チェーン」を選択することで、真正な意味での検閲耐性と高性能を両立しようとしています。ロールアップのようにデータをEthereumに依存させないため、データ可用性(DA)や最終性の面でもMonad独自のアプローチが可能になるのです。
3. Monadで何ができるのか
(1) EVM互換のスマートコントラクト実行
MonadはEVMバイトコード互換を目指しているため、Ethereum上で動くSolidityやVyperで書かれたスマートコントラクトを再コンパイルなしでデプロイできるとされています。開発者は既存の開発スタック(トリュフフレームワークなど)をそのまま活用できる可能性が高いため、Ethereumからの移行やマルチチェーン展開が容易になります。
(2) 高速なゲームや各種dAppの展開
ゲームやNFTマーケット、AMM(自動マーケットメイカー)、SNSなど、トランザクションが大量に発生するアプリケーションにとって、低コストかつ高速なネットワークは重要です。Monadは並列実行と高速コンセンサスによって、秒間数千〜数万のトランザクション処理を視野に入れており、ユーザー体験の改善が期待されています。
(3) 大規模ユーザーベースの取り込み
開発者向けコミュニティでは「Nads(Monadのコミュニティメンバーの呼称)」と称される活発なユーザーが存在し、DiscordやTelegramを通じてプロジェクトの情報交換が行われています。今後、メインネットがローンチされれば、Ethereumなど既存プラットフォームのユーザーも利用しやすい環境が整うため、DeFiやNFT、ゲームなど幅広い分野のユーザー基盤を取り込むポテンシャルがあります。
4. Monadには現在どのようなアプリケーションがあるのか
2023年現在、Monadはテストネット段階にあり、メインネットは2024年頃のローンチが予定されています。そのため、大規模なdAppやDeFiプロトコルがまだ立ち上がっているわけではありません。ただし、以下のような可能性が指摘されています。
- 既存のEthereum系dAppの移植
UniswapやAaveなどのDeFiプロトコルが将来的にMonad上での流動性提供を試す可能性があります。並列実行を活かせば、高頻度トレードや大規模ゲームアプリなどに最適化できるかもしれません。 - 新規開発のゲーム・NFTプロジェクト
Solanaが独自の並列実行(Sealevel)でゲーム分野を盛り上げたように、MonadもEVM互換チェーンとして独自のゲームエコシステムを形成する潜在力があります。ガス代の安さや高速処理が求められるブロックチェーンゲームに適した基盤として期待されています。 - エンタープライズ向けアプリケーション
高いスループットと確定性を求める企業ユースケース(例えば決済やサプライチェーン管理など)でも、ロールアップ以上に分散化を重視したいケースではMonadのようなL1のアプローチが評価される可能性があります。
5. Monadの技術的詳細、仕組み
(1) MonadBFT:高速コンセンサスメカニズム
MonadはMonadBFTと呼ばれるBFT(ビザンチン耐性)型の合意アルゴリズムを採用しています。リーダーがブロックを提案し、他のバリデータが署名付きで承認を返送し、それを集約して再度ブロードキャストすることで最終性を達成する仕組みです。
- ブロックタイムは約500ミリ秒
- ブロックが確定(ファイナライズ)するのは次の2ブロック目の提案(約1秒後)
この「QC(Quorum Certificate)」と「QC on QC」を組み合わせた仕組みによって、高速かつ決定的な最終性を得ることを目指しています。
(2) RaptorCast:効率的なブロック配布
リーダーが全バリデータへ直接巨大なブロックを送信するのは帯域幅の面で非効率です。そこでMonadでは、ブロックを複数の“チャンク”に分ける誤り訂正を利用したRaptorCast方式を採用します。
- リーダーはブロックをエンコードし、複数のチャンクを生成
- それぞれのチャンクを特定のバリデータに送信
- 受け取ったバリデータは2段階のブロードキャストツリーを通じて他のバリデータに転送
この仕組みによってリーダーのアップロード帯域を大幅に削減し、エラーや不正が一部発生しても復元可能な耐障害性を確保しています。
(3) 並列実行(Optimistic Parallel Execution)
従来のEVMチェーンでは、同じブロックの中のトランザクションを1つずつ順番に処理していきます。しかしMonadでは、「独立しているトランザクション同士は並列に実行し、共通のストレージを触る可能性があるものは再実行も含めて整合性を保つ」という楽観的並列実行手法を導入しています。
- まず、各トランザクションを楽観的に並列実行し、読み書きしたストレージのスロットを記録
- シリアルなコミット段階で、もし他のトランザクションの更新によって前提が崩れていれば再実行する
この方法なら、依存関係の薄いトランザクションを効率よく並列化でき、通常のケースでは大きなパフォーマンス向上が見込めます。
(4) Asynchronous Execution(非同期実行)
ブロックの提案と実行をパイプライン化し、コンセンサス確立とトランザクション実行を分離しています。
- まずはコンセンサスを優先的に完了させ、ブロックを確定
- 実行はやや遅れて行われ、パラレルに処理された結果が最終的に状態に反映される
ブロックタイムが非常に短い(500ms)場合でも、実行を非同期化することで処理時間を確保し、ネットワークのスループットを高める狙いです。
(5) MonadDb:カスタムデータベース
EVMの状態(ステート)を保管するために、一般的なデータベースと別の木構造を重ねるのではなく、**Merkle Trieをネイティブにサポートした独自DB(MonadDb)**を採用しています。
- Merkle Trieへのアクセスを直接最適化
- 多数の並列リクエストを捌きやすいアーキテクチャ
- キャッシュ効率を高め、大量のI/Oを軽減
これらの改良によって、ストレージアクセスがボトルネックになりがちなEVM実行において、大幅な処理速度向上を目指しています。
まとめ
Monadは、EVM互換チェーンとして従来のEthereumエコシステムとの親和性を維持しながら、並列実行や独自コンセンサス機構・RaptorCastなどの先進的技術を取り入れたL1ブロックチェーンです。ロールアップのようにEthereumのデータ可用性に依存するのではなく、独立したチェーンとして「高いパフォーマンスと分散性」「低コストかつ高速な取引」「EVMとの高い互換性」を同時に追求しています。
現在はテストネット段階ながら、ブロックタイム500ミリ秒・約1秒での最終性・150百万ガス/ブロックといった意欲的な設計を実現しており、本格的なメインネットローンチは2024年を目標としています。ゲームや大規模DeFi、さらには企業向けユースケースまで、トランザクションが大量に発生する場面で力を発揮しうるMonadは、今後のブロックチェーンのスケーラビリティ問題の解決策の1つとして注目を集めるでしょう。
今後、メインネットが稼働し始めれば、EVM対応のdAppが次々と移植される可能性があり、また高いトランザクション処理性能を活かした新しいユースケースが続々と登場するかもしれません。「もっと速く、もっと多くのユーザーを、もっと低コストで支える」――Monadが目指す並列計算型レイヤー1の世界観が、どこまで実現されるか今後の動向に要注目です。

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