2024年5月に起きたDMM Bitcoinの流出事件は「マルチシグなら安全」という常識を覆しました。2本の秘密鍵が同時に盗まれ、4 502 BTC(約480 億円)が一瞬で持ち去られたのです。
調査の結果、犯行グループは北朝鮮系ハッカー TraderTraitor(ラザルス傘下)で、求人詐欺メール→開発環境へのマルウェア混入→送金コードの改ざんという3段階の攻撃を行ったことが判明しました。
資金はミキサーやクロスチェーンブリッジで細かく洗浄され、いまも多数のウォレットに分散中です。事件後、DMM Bitcoinは親会社から352 億円を借りて顧客補償を完了しましたが、2025年3月にSBI VC Tradeへ事業を譲渡して撤退を決めました。
事件の概要
- 発生日:2024年5月5日早朝、日本の暗号資産交換業者DMM Bitcoinのホットウォレットから4 502.9 BTCが不正送金されたと会社が発表 。
- 被害額:当時のレートで約480 億円、世界歴代8位の規模 。
- 検知:社内アラートで異常トランザクションが見つかり、同日中に入出金を停止 。
- 補填資金:親会社DMMグループが352 億円分のBTCを調達し顧客負担ゼロを宣言 。
- 行政対応:金融庁は9月に業務改善命令を出し、国内全取引所へ自己点検を要請 。
- 最終帰結:2025年3月、全顧客口座と資産がSBI VC Tradeへ移管され、DMM Bitcoinは閉鎖予定 。
攻撃の手口をかんたん解説
マルチシグ鍵の同時流出
DMM Bitcoinは「2‑of‑3」方式のマルチシグを採用していましたが、攻撃者は社内保管の鍵1本と、外部委託先が持つ鍵1本をいずれも窃取し、送金に必要な2署名を生成しました 。
ポイント:マルチシグでも「管理権限が集中している」と同時流出が起こりうる。
求人詐欺によるマルウェア感染
- LinkedIn経由で委託開発会社Gincoのエンジニアに「高年収オファー」のPDFを送付
- ファイルにはバックドア型マルウェアが仕込まれ、PC内のGitHubトークンが窃取
- 攻撃者は社員になりすまし、送金先アドレスを書き換えたコードをプルリクで提出
- レビュー担当者が承認→自動署名フローで犯行アドレスへ送金発火
この一連の流れはTraderTraitorが得意とする手口で、米FBIも同様の分析を示しています 。
アドレスポイズニング
送金先アドレスはDMM側が日常的に使う自社アドレスと先頭・末尾が同じでした。人間の確認ミスを狙う「アドレスポイズニング」という古典的トリックです 。
高額ガス手数料で即時ブロック生成
犯行トランザクションには通常の10倍以上のネットワーク手数料が積まれ、「送金キャンセルが間に合わない」状態を作られました 。
犯人と動機
- 日本警察庁・FBI・米国防省DC3は北朝鮮ラザルス系TraderTraitorが関与したと共同発表。
- TraderTraitorは2024年だけで世界から6.5億ドル超を窃取し、核開発資金に充てていると報告されています 。
流出BTCはどこへ?
- 4502 BTCを10〜500 BTCずつに分割 。
- YoMixなどのオンチェーンミキサーで混合 。
- THORChain/ChainflipでBTC→ETH→BTCとチェーンをまたいで履歴を分断 。
- 最後はOTCデスクやP2P市場で細切れ現金化と推定。
Chainalysisは「送金元と送金先を追えば約30 %は依然追跡可能」と指摘しています 。
事件が示した教訓と再発防止策
技術面
- MPCウォレットで鍵を数学的に分散:物理鍵が存在しないため盗難リスクを最小化。
- アドレスホワイトリスト+テスト送金:大口送金前に少額テスト→確認→本送金でヒューマンエラー回避 。
人的・運用面
- 採用・転職関連メールは必ずサンドボックス検証。
- GitHubはSAML/MFA義務化と署名付きコミットで改ざん検知。
- リアルタイム監視ツール(Chainalysis KYT など)で大口異常送金を瞬時にブロック。
規制面
金融庁は「ホットウォレット残高の最小化」と「外部委託コードの二重レビュー」を全交換業者に指示しました。
まとめ
DMM Bitcoin事件は「鍵の物理分散」と「人の多層防御」がそろわないとセキュリティは破られることを世界に示しました。個人投資家も送金前にアドレス全文を確認し、取引所選びではMPC採用やリアルタイム監視体制の有無をチェックする――それが自分の資産を守る最短ルートです。

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